平成11年12月16日
12月15日の朝日新聞朝刊の社説に「厚生省調査によれば開業医の平均収入は2年前より18%増えている。診療報酬を引き上げるには環境も条件もふさわしくない。」とあります(一部抜粋)。2年で18%アップ?こんな馬鹿な数字がどこから出てきたのでしょうか?
同じ日の記事に「病院や診療所の経営状況調査(今年6月分)で算出した開業医の月収(診療所全体の平均)は前回(1997年9月分)より18%増であった。これに日医が猛反発し、今回は前回より平日が2日多い等指摘した。厚生省が日医の批判を受けて計算し直したところ無床診療所の収入が4.4%伸びたという結果になった。」と書いてあります(一部抜粋)。
まず、医療機関の収入は毎月かなり変動し、6月分と9月分の収入はかなり異なります。2年前の9月分と今年の6月分の収入を比較してなにか意味があるのでしょうか?同じ月ならまだ多少は意味がありますが、異なる月を比較したこの数字は年間合計収入の増減とは全く無関係です。
百歩ゆずって何か意味があるとしても、社説に訂正前の数字を使うのは訂正の必要がないと朝日新聞は判断したのでしょうか?このような数字は勝手に一人歩きし、あちこちで引用されます。責任は重大です。
新聞には詳細が書いていないので厚生省がどのような訂正(再計算?補正?)をしたのか分かりませんが、この社説はひどすぎます。2年で18%も収入が伸びているなんて、実体からかけ離れ、あいた口がふさがりません。
私は朝日新聞に対し厳重に抗議します!
上の文は平成11年12月に朝日新聞に送った抗議メールです。
何が問題か?数字の扱いが間違っている。これが全てです。
平成9年の9月分と11年の6月分を比較する場合、6月と9月の収入はほぼ等しいという大前提があります。実際は例年学校の健診がすんだ直後の6月の方が気候の良い9月より受診者が多いのです。逆に平成9年の6月と11年の9月を比較すれば激減しているはずです。つまり比較する意味がないのです。「3年前の猫の体重より去年の犬の体重の方が18%重いから、ペットの体重の合計は2年間で18%増えた」と言っているのと同じです。
多分厚生省の訂正値(4.40%)は季節の補正などを加えた値でしょう。しかしそれはかなりの誤差を含む概算値でしかありません。訂正した値もそのつもりで数字を見なければいけません。ちなみに日本医師会が補正した試算値は-3.70%です。8.10%違うわけです。
ところが朝日新聞の社説は訂正前の数字(18%)を根拠に話を組み立てています。意味のない数字を羅列するのは詐欺師がよくやる手です。知らずにやっているのなら、社説を書いた人の知性が疑われます。
情けない事です。なお、朝日新聞からは何の返事もありません。
平成11年12月15日朝日新聞朝刊社説(無断転載)
引き上げる環境にない診療報酬
来年度予算編成に向け、病院や開業医などの医療機関が受け取る診療報酬改定問題が大詰めを迎えている。日本医師会が人件費の上昇などを理由に平均3.6%の引き上げを要求しているのに対し、保険料を支払う側の健康保険組合連合会と日経連、連合が保険財政の赤字などを挙げて「むしろ引き下げるべきだ」と反論、真っ向から対立している。診療報酬はほぼ二年に一度、改定が行われてきた。来年4月が、次の改定にあたる。
改定幅や内容は診療側と支払い側、公益側の三者構成による中央社会保険医療協議会(中医協)の意見を聞いて、厚相が告示する決まりになっている。
医療費の約四分の一は国庫負担なので、予算がからむ。中医協は今週中に結論を出さなければならない。
医師会要求通りの引き上げ幅だと、国民医療費は年間約一兆円増える。その財源は保険料と税金、患者負担だ。年々増える医療費のため、健保組合や市町村国民健康保険の多くが赤字に苦しんでいる。高齢化にともなう一定の医療費増はやむを得ない。だが、どんどん膨らむ構造にメスを入れなければ、利用春者は負担できなくなり、制度自体が壊れてしまう。ところが、二年前の夏から始まった制度改革の議論は、医師会の反対で迷走を続けて決着が見えない状況だ。「引き上げより、制度改革の実施が先だ」と健保連などが主張するのは当然であろう。
不況で、サラリーマン世帯の実収入は前年比マイナスである。一方、厚生省調査によれば、開業医の平均収入は二年前より18%増えている。診療報酬を引き上げるには、環境も条件もふさわしくない。
それだけではない。厚生省は、来年度からの高齢者の患者負担引き上げ、高額療養資の限度額引き上げなど、いくつもの患者負担引き上げ案を示している。
患者負担は1997年9月から引き上げられ、患者は医療費の−定割合(高齢者は一定額)のほかに、薬剤費の一部も別途負担してきた。
このときの患者負担の引き上げで患者が一時減ったことから、会員の突き上げを受けた医師会は薬剤別途負担廃止を要求した。自民党と医師会は今年の夏に、「来年度から薬剤別途負担を廃止する」との合意文書を交わしている。
薬剤別途負担の廃止で、医療保険財政は約4,900億円の収入滅になる。今回の患者負担引き上げ案は、その穴埋め策であり、制度改革の名に値しない。
自民党は同じ合意文書で、診療報酬引き上げ財源の確保も医師会に約束した。
今回の診療報酬改定と患者負担引き上げ案の提示は、自民党と医師会の合意文書の後始末を、国民の負担増でまかなおうとしているものだ。
自民党は、支持基盤がやせ細りつつあるなかで、従来の支持団体や業界の意向に、以前にも増して引きずられる傾向が強まっている。
一方の医師会は、制度改革による既得権の喪失をおそれている。それぞれの危機感が、両者の結びつきを強めている。
総選挙を前に、お互いの利益のために診療報酬や患者負担の引き上げを強引に推し進めようとする姿勢があらわだ。
自民党がまずなすぺきは、制度改革への道筋を明らかにすることである。
平成11年12月15日朝日新聞朝刊記事(無断転載)
開業医月収 幅減っても伸びています
厚生省が病院や診療所の経営状況調査(今年6月分)で算出した開業医の月収を、日本医師会の批判を受けて計算し直したところ、入院ベッドのない個人診療所は百九十九万六千円で、前回(1997年9月分)より4.4%伸びたという結果になった。
今回の調査では診療所全体の平均が二百三十五万五千円(18%増)、入院ベッドのない診療所は月収二百二十一万三千円(15.7%増)だった。これに日医が猛反発した。今回は前回より平日が二日多いと指摘し、入院ベッドのない診療所の、独自の試算で百八十四万二千円(3.7%減)としていた。診療報酬はほぼ二年に一度改定される。今度は来年四月で、日医は3.6%の引き上げを要望。健康保険組合連合会などが引き下げを主張している。診療報酬には政治がからみ、厚生省もへたに動けない側面がある。担当者は「平日が二日減っても、収入が大幅に減るわけではない」と、淡々と説明した。