院長ごあいさつ (H.138.9-H.14.9.22)

     医師会とIT革命    (宝塚市医師会月報平成13年7月号巻頭言より)

 総理大臣に小泉さんがなってから「聖域無き構造改革」が叫ばれています。彼とそのスタッフが打ち出している様々なプランは自助努力を根本とする小さな政府を目指しているようです。今まで自民党は保守政党のはずなのに税金をできるだけ集めて、あちこちにばらまく大きな政府を作ってきました。その結果が膨大な財政赤字です。歴史的にこれだけの赤字を積み上げた国が革命か戦争以外で赤字を解消できた例はないそうです。

 医療も「老人医療の総枠を決めて伸びを抑制する」そうです。患者さんと医者が対面し人間関係を構築する事が医療の根本原理ですので、効率化にもおのずから限度があります。勿論無駄を省き、効率化できるところはできるだけ効率化するのは当然の事ですが、効率化以上に抑制すれば質の低下を来すのも当然の事です。果たして国民は質の低下を納得して甘受してくれるでしょうか?最前線に立つ我々が非難されるのはたまりません。非難で済まず訴訟になったらどうするのでしょう?

 今、医療の効率化とはIT化、コンピューター化を意味します。しかし医者にとってコンピューター化は「端末の入力業務が増えるばかりで何も得る物がない」と不評です。日本の病院は欧米に比べ看護婦さんですら不足気味ですので、口述テープからカルテを作成する文書作成秘書なんて絶対いませんし、医者の代わりにコンピューター入力をしてくれる事務員もいません。コンピューターシステムを作る時には、医者の仕事を増やさない事が絶対条件ですし、患者のデータや情報が簡単に取り出す事ができて、医療の質が向上するように考えねばなりません。すなわち、検査などのオーダー、院外処方箋作成や院内投薬・注射などの指示、薬歴管理、各診療科の情報を含んだ病院全体で患者1人に1つの電子カルテが医療事務やレセプト請求に直結しないと効率化にならないわけです。

 今後はこの電子カルテが病診連携でデータの共有、在宅訪問看護とのデータ共有を通して地域医療情報ネットワークの核になるかも知れません。

 私も音声入力がもっと確実で実用的になり、大学病院の外来シュライバー(書記)がカルテを書いてくれるようなレベルになれば電子カルテを導入したいと思っています。例えば、「ミノマイ顆粒3日分」と言えば、モニタに「ミノマイシン顆粒」と入力され、患者の体重から投与量を計算して3日分の処方箋を印字してくれないといけません。多めの量を言ったり、配合禁忌薬を処方したり、薬物アレルギーの既往に該当する薬剤を出した時には警告音が鳴り、注意してくれる必要があります。「能書(添付文書)」と言えば最新薬品情報が出てくる。そのように、今より便利にならないと使う気がしません。もう2,3年で実現するでしょう。しかし、理想の性能にはまだ届いていなくても、かなり便利な機能を備えた電子カルテが出てきており、そろそろ導入を真剣に検討する時期かも知れませんね。

 医療事務の簡素化にレセプト電算処理システムがあります。いわゆるレセプトのフロッピー提出です。私の診療所も兵庫県下全域がフロッピー提出可能になってすぐの平成9年11月からフロッピーで提出しています。それまで紙にプリントして、端をやぶって、まとめて、枚数を数えて、紐で綴じたりするのに何時間もかかっていたのが楽になりました。月初めの拘束時間が半分以下になりました。 平成10年2月では兵庫県下146医療機関、レセプト件数で80、647件の参加でしたが、平成13年4月では13都道府県266保険医療機関の約18万5千件で、そのうち兵庫県は196保険医療機関で約10万件の参加です。兵庫県はこのレセプト電算処理システムの先進県ですが、それでも全医療機関、全レセプト件数の5%弱で、3年間でほとんど増えていません。これは医療機関も、審査支払機関(支払基金、国保連)も保険者もみんな楽になるシステムなのに普及しないのは不思議でなりません。コンピューターによる審査を危惧する方が多いのでしょうね。

 ITといえばインターネットが頭に浮かびますが、インターネット上にホームページを載せるのは情報開示の第一歩です。自らの存在をこれだけ安価に世界中に示す事ができる手段は他にありません。

 日本医師会は郡市区医師会に対して積極的にホームページを公表するように指導しています。宝塚市医師会も平成11年1月1日よりホームページを開設し、宝塚市医師会の活動を公表してきました。今回、日本医師会が医療機関情報(医療マップ)を作成するように指導した事に応えて、宝塚市医師会の会員医療機関の名簿(医療機関名、院長名、診療科、診療時間、地図、院長写真など)をホームページ上に公表し、市民が医療機関を訪れる時の参考にして貰おうと考えています。現在医療情報委員会の先生方に頑張って作業して頂いており、2,3ヶ月後には完成するのではと思っています。ただ公表を希望しない会員が若干おられるのは残念ですが、仕方がありません。